Passive Safety
─ ライダーを守る性能と安全規格 ─
世界各国の安全規格
モーターサイクル用ヘルメットは、世界各国、各地域で安全規格が定められており、「SHOEI SAFETY CONCEPT」を構成する2つの安全性の1つ、「Passive Safety」もこれらが基準となっています。
また、各安全規格はその国や地域の道路環境や交通事情、そして事故データの分析等から内容が定められており、SHOEIではそれらをクリアするべく、高い衝撃エネルギーに対してはクラッシャブルな構造とすることで効率的に衝撃を吸収したり、シェル強度を高めることによって、尖った対象物への保護性能を確保するなど、いずれも定められている高い性能をクリアすべく開発を続けています。
SHOEIでは、すべての製品が仕向け地の安全規格に適合することはもちろん、「Passive Safety」を安定した品質でライダーに提供するため、高度な技術と厳格な品質管理のもとにヘルメットの開発・製造を行っています。ここでは代表的な安全規格の一つであるJIS規格の概要と試験方法をご紹介します。
JIS規格とは
JIS規格(日本産業規格)とは、日本の工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格です。工業製品の種類、寸法、品質、性能、安全性、それらを確認する試験方法や、要求される規格値などが定められており、その目的は広く国民が安心して高品質な製品を入手できるようにすることだと言えるでしょう。そして当然のことながら、ライダーの頭部を保護するヘルメットにも性能や試験方法が定められています。
JIS規格の特徴と試験方法
日本国内向け製品で取得しているJIS規格では、衝撃吸収性試験、あごひも試験、ロールオフ(回転離脱性)試験、構造試験、耐貫通性試験などが課せられます。なかでも衝撃吸収性試験において同一個所に2回衝撃を加えるほか、突起物に対する耐貫通性能が試されるなど、比較的高い衝突エネルギーに対するシェル剛性と保護性能が要求されるのが特徴です。
<衝撃吸収性試験>
- センサーを内蔵した人頭模型にヘルメットを被せ、規格で定められたテスト範囲内の任意の点4か所をそれぞれ2回ずつ、規定のスピード(1回目:7m/sec、2回目:5m/sec)に達する高さ(同250cm、128cm)からヘルメットを落下させ、鋼鉄製のアンビルに衝突させる。鋼鉄製のアンビルの形は、平面状のものと半球状のものがある。
- 衝突の際、人頭模型に伝わった衝撃加速度と衝撃の継続時間をセンサーで測定する。
合格基準
- 人頭模型に伝わる衝撃加速度が2,940m/sec²(300G相当)を超えないこと。
- 1,470m/sec²(150G相当)以上の衝撃加速度の継続時間が6/1,000秒以内であること。
<耐貫通性試験>
- 人頭模型にヘルメットを被せ、規格で定められたテスト範囲内の2ヶ所に対して、3kgの先の尖ったストライカを200cmの高さから落下させる。
合格基準
- ストライカの先端が人頭模型に接触しないこと。
<あごひも試験>
- 人頭模型にヘルメットを被せてあごひもで固定し、あごひもに予め15kgの荷重を与える。
- さらに10kgの重りを75cmの高さから落下させ、動的な荷重を加える。
合格基準
- 10kgの重りを落下させたときに発生する、最大歪み(伸び)が35mmを超えないこと。
- 10kgの重りを取り除いた後の、残留歪み(伸び)が25mmを超えないこと。残留歪みの計測にあたっては、最初に加えた15kgの重りは荷重したまま計測を行う。
<ロールオフ(回転離脱性)試験>
- 人頭模型にヘルメットを被せてあごひもで固定し、予め3kgの荷重を与える。
- ヘルメットの後頭部下端にフックを取り付け、10kgの重りを50cmの高さから落下させることで前方へ回転するように引っ張る。
合格基準
- ヘルメットが人頭模型から脱げ落ちないこと。
SNELL規格とJIS規格
JIS規格と並んで広く知られているSNELL規格。これはアメリカのスネル財団という民間の試験機関によって定められている任意の規格で、国が定める強制規格(取得しなければ販売できない規格)ではありません。
スネル財団は、アメリカのピート・スネル氏がカーレース中の事故で命を落としたことがきっかけで設立された団体で、氏の悲劇を教訓に策定されたSNELL規格では、衝撃吸収性試験で他規格よりも高い位置からヘルメットを落下させるほか、JIS規格と同様に同一ポイントに対して2回衝撃を加えるなど、比較的高いエネルギーに対して厳しい試験となっています。
レースへの参加に際しては、各国で定められている規格と共に、このSNELL規格がレース主催団体などによる承認規格として数多くリストアップされています。
一方、JIS規格はSNELL規格では規定のない衝撃加速度の継続時間を定めるなど、SNELL規格とは異なった試験内容となっており、比較的軽量化が可能という点などを含め、総合的な安全性能においてSNELL規格に勝るとも劣らない優れた規格です。世界的に見ると、SNELL規格が「高いシェル剛性を求める規格」であるのに対して、ヨーロッパECER22/05規格は「ヘルメットをクラッシャブルな構造として、中の頭を守る」という考え方から生まれた規格。そして双方の中間的なJIS規格は柔と剛を併せ持つ優れた規格であるといえます。
高速度のレースを前提として作られたSNELL規格の強度を実現するためには、ヘルメットはある程度重くならざるを得ません。一般使用における頭部の運動性や事故の際の頸部への負担を考慮するとその重量が不利になる場合もあり、必ずしもあらゆる状況でSNELL規格が万能というわけではありません。
SHOEIではさまざまな規格の意義と優位性を十分に検証した上で、今後もライダーの使用用途に応じて最適な規格を取得し、保護性能すなわち「Passive Safety」はもちろんのこと「SHOEI SAFETY CONCEPT」を構成するもうひとつの安全性「Active Safety」にも貢献する快適なヘルメットを供給していくという考え方に立っています。
その他の安全性を表すマークについて
ヘルメットを手にして、製品の安全性などに関するいくつかのマークを印刷したステッカーが貼り付けられていることに気づいた方も多いでしょう。安全規格であるJISやSNELLについては前述したとおりですが、その他にもPSCマークやSGマークなどがあります。ここではその意味を簡単にご説明します。
SG/PSCマーク
安全にかかわる製品を対象とした消費生活用製品安全法では、国内で販売するモーターサイクル用ヘルメットには国産品・輸入品にかかわらずPSCマークを付けることが義務づけられています。したがって、ヘルメットを購入する場合はこのPSCマークを確かめることがとても重要です。
また、PSCマークを付けることができる性能条件については、現在JIS規格と同等となっています。SHOEIの日本国内二工場はJIS認定工場及びSGマークの登録工場として認定を受けており、SHOEIの日本国内向けモーターサイクル用ヘルメットにはJISマークとともにPSCマークのステッカーが貼られています。
SGマークとPSCマーク
SGマークは製品安全協会が規定しているもので、その表す意味はPSCの基準を満たし、PL法に基づく損害賠償保険が付保されている製品ということです。いわば、公的に認められた安全性をPSCマークが、それに伴う製造物賠償の責任をSGマークが示しているという関係であり、一見すると別々の意味を持つJISマークとPSCマーク、そしてSGマークですが、全て関連性を持ちながら安全性を表しているのです。
MFJマーク
財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)は、競技者の安全に寄与する事を目的に、競技用ヘルメットの公認に関しての規定を定めており、MFJの公認レースに参加するには、それに適合していることを示すMFJマーク(公認または特選)が表示されたステッカーが貼り付けられたヘルメットを着用することが義務付けられています。
「公認」の安全基準はJISに準拠しており、ロードレースに関してはさらに「3kgの鋼製ストライカを300cmの高さから落下させ、ストライカ先端が人頭模型に接触してはならない」という内容が追加で課せられています。
このように日本でモーターサイクル用として販売できるヘルメットにはさまざまな規格や要件があり、目的や用途によっても必要となる機能や性能に違いがあります。しかし最も重要なのは、ライダー自身が安全のために正しい知識を持って自分に合った製品を選ぶということに他なりません。