Active Safety
─ 「万が一」を起こさないための性能 ─
エアロダイナミックスの追求
首への負担軽減という観点では、ヘルメットの空力特性は極めて重要です。エアロダイナミックスの追求は、空力的な応力発生による負荷(空気抵抗)を抑えることにつながり、ライダーの疲労軽減に直結します。SHOEIでは自社大型風洞実験施設を所有しており、これを開発に活用することで空力的に優れた新製品を作り出しています。
例えば、現行フラッグシップモデルであるX-Fourteenは、既に高い空力特性を誇っていたX-TWELVEを超えることが至上命題でした。空力の要素であるドラッグ、リフト、ヨーイングなどのうち、どれかひとつにフォーカスして開発するのはそれほど難しいことではありません。しかし、ヘルメットの空力はそのすべてが優れていなくてはならず、開発者は風洞実験室でクレイモデルと向き合い、少しずつ形状を整えながらそのデザインを完成させました。また、開発当初は想定になかった別体式のリアフラップというアイデアも風洞実験から生まれた画期的な成果の一つです。
SHOEIヘルメット各部の段差やパーツは全て空力的な意味を持っています。X-Fourteenを例にとれば、顎の特長的なラインは振り返るときなどの空気抵抗を軽減するためのものであり、リアフラップにワイドとナローが用意されているのも、ライダーの好みを反映した空力特性を実現するアイデア。シールドの両サイドに設けられた小さな突起群、ボーテックスジェネレーターは、ドラッグ方向の空力特性と静粛性を向上させるためのものなのです。つまり、SHOEIヘルメットは機能美の集合体であり、デザインのためのデザインではありません。イメージだけのエアロフォルムは通用しないということをSHOEIは知っているのです。
進化を続けるベンチレーション
「安全のためにはヘルメットは暑くてはいけない」という発想から、SHOEIは1980年代前半にベンチレーションシステムを開発。ヘルメット内を効果的に換気して快適性を向上させるこのシステムは、現在では必須の装備と言えるまでになりました。これもまたSHOEIのActive Safetyへの考え方が具現化した一例と言えるでしょう。
また、SHOEIのベンチレーションシステムは吸排気効率が高く、効果が実感できると定評を得ていましたが、これまでチークパッド周囲の換気は未開拓の分野でした。しかし、想像以上に運動量が多いロードレースの世界ではヘルメット全体を快適に保つことがライダーの集中力に直結します。SHOEIではこれまで培ってきたノウハウを集結してX-Fourteenに採用したチークベントシステムを開発したのです。
SHOEIが独自に開発した2層構造の衝撃吸収ライナー「デュアルライナー」。2層構造のライナー間に空気の通り道である「エアルート」を設けたことで、アウトレットから熱気を効率よく排出、ベンチレーション効果を飛躍的に向上させることに成功しました。
X-Fourteenでは、シールド下部に設置したロアエアインテークを2系統に分離。下側インテークから熱や湿気がこもりやすいチークパッドにエアルートを設け、走行風を導入しています。
SHOEIは最も早くベンチレーションシステムを開発したメーカーの1つとして知られていますが、それは強度を維持したまま穴を開けることができる強靭なシェルや効果的なベンチレーションパーツを開発する技術があったからです。また、それらがあったとしても安全性を担保するためにはベンチレーションを設置できる位置や数は限られます。そのためSHOEIでは自社風洞実験設備や試験設備などをフル活用し、安全かつ理想的な効果を発揮するベンチレーションシステムを研究・開発しています。
風洞実験における、ベンチレーション効果をカラーグラフ化したもの。100km/h相当の風をフロント部に送り、10分後の温度効果状況を計測しています(社内参考値)。左が従来のX-12、右がX-14。青色になるに従い温度が降下したことを表しています。
静粛性の追求
走行中に発生する不快な風切り音はライダーにストレスを与え、耳への悪影響や集中力の低下を招きます。これを低減する方法は主に2つあり、1つはヘルメット周囲の空気の流れをコントロールし、ノイズの発生そのものを抑制すること。もう1つは、シェルや内装の構造により不快に感じる帯域の音を減衰し、ヘルメット内部に侵入させないことです。この2つを両立させることで初めて静かで快適なヘルメットを作ることができます。
SHOEIでは風洞実験や実走テストを通じて検証を重ね、不快な風切り音の発生メカニズムを解析。ベンチレーション効果や被り心地を犠牲にすることなくノイズの発生そのものを抑制する技術や、高水準の静粛性を提供する内装素材、構造などを研究しています。ヘルメット下側からの風や音の侵入を防ぐ装備としてNEOTEC IIに採用されたノイズアイソレーターもその成果の一つです。